劔崎神社

神奈川県三浦市


この神社の前に小山という山がある。そこに一匹の大蛇がいた。大変に勢があり沖を帆前船が通るとこの大蛇がとめてしまったとの事である。ここへ置くとどうしても都合が悪いので燈台の南側の下に祀った。それからこの大蛇の姿は久しく見られなかった。沖を通る帆前船も無事に通る事ができるようになった。六、七年前にも大蛇の姿を見た人があるといわれているが、その生死ははっきりしていない。

『海辺の暮らし 松輪民俗誌』
(三浦市教育委員会)より

追記

今も劔崎の灯台下には小さな祠がある。上の地元の話では小山の大蛇を祀った祠という事で良さそうだが、同祠の話として、剣を竜神に献じた・剣を祀ったとする話もある(「剣を海に投じる」)。

上の話では、大蛇の祠であるとして重要な事が語られており、祠の位置を変える事で大蛇の禍が止んだとある。海の見えるところにあった神が船足を止めるので、見えないところに遷す、という話は各地にあり、この辺りでは伊豆城ヶ崎にもある。

劔崎の祠は、海が見えなくなるほどには引かれていないが、海に面した小山の位置から、やや引いた灯台下に遷したということならば、同様するものだろう。その対象が竜蛇であるとはっきりしている貴重な事例となる。

ちなみにその灯台下と小山の間は、関東大震災の隆起で陸になってしまったが、かつては「星見の池」と呼ばれる、竜宮信仰らしき禁忌の深みであったという。そこを越えて祠を奥に引いた、という事だ。