五月節供にろくしょうをまくわけ

原文:神奈川県茅ヶ崎市


五月の節供には、屋根にしょうぶ、かや、よもぎを束にさして、家の回りにろくしょうをこがすといって、大麦の粉をこがしたのをまくんだね。

なぜそうするかというと、蛇の魔除けなの。蛇はこれをくうと死んじゃう。というのはね、

昔、人を食ってしょうがない蛇がいた。それじゃおれが退治してくるといって出て行ったが、出てきた蛇を見て、肝をつぶして、ひっくらけえって逃げて来ちまった。二度目に行った人はけえってこない。これはおかしいから行ってみべえっていって、
「おれはいく日たって帰って来るかわかんねえから、すまないけんど、ろくしょうのこがしを弁当の代りに持って行くからな。」
って。

雨の降るのを待って、谷川の水でろくしょうをといて食うべえ、と剣を持ってでかけた。

ところが、剣なんか受けつけるもんじゃねえ。体がしゃちのように、かちかちになってる。蛇が化けちゃってて歯がたたないんで、木にかけ登った。

逃げんとって、こがしの入っている袋のけつが切れちゃって、こがしが、ばくり口をあけてのみ込もうとしてる蛇の口の中へおっこちちゃったから、口をふさげべえと思ったって、蛇の口がふさがりゃしない。そんで苦しがって死んじまったって。

そいで、蛇の魔除けにろくしょうのこがしを、家の回りにまくんだよ。

(堤 本間福次郎さん 明治31年生 昭和55年6月)

『茅ヶ崎の伝説』
郷土史研究グループ「あしかび」
(茅ヶ崎市教育委員会)より

追記