蓮華池の大蛇

神奈川県藤沢市


トウノコシの滝があって、江の島大師のお寺の建った所に、蓮華地があって井戸のそばに池があった。そこにはジャ(蛇)が出るから行くなといわれた。腰越の八駄船が海からそこを見たら、水を飲みに出ていたジャがいた。それを見た人はモッケヤミになってしばらく漁に出られなかったそうだ。角が出てたというから大蛇だ。(明治38年生 女)

蓮華池は草ボウで怖い所だった。大蛇が棲んでいるといってリュウチエン(龍池園)ともいった。江の島大師ができたが、昔は大蛇に食われるから行くなといわれた。あるお婆さんが、近くを通ったら、丸太が倒れていて、またぐと動き出したという。丸太と思ったら蛇で、それを見たおばあさんは病んでしまった。(明治36年生 女)

『江の島の民俗』
(藤沢市教育委員会)より要約

追記

江島縁起にも蓮華池と見える池のことだと思うが(「江島縁起・安然秘所記」)、近古に至っても大蛇の棲む所と島民に思われていたようだ。縁起の同箇所を見れば竜蛇だらけの江の島ではあるのだが、島の人に蛇の怪があるとされたのはここだけのようである。

江の島に住む人も色々に怪異を語るのだが、狐やムジナといったところで、信仰の島江の島が竜蛇の島であるというイメージとはかけ離れる。どこでもそうだが、土地にはそのような複数の層があるもので、江の島という小さな範囲でそれがはっきり見える様子は面白い。