蓮華池の大蛇

原文:神奈川県藤沢市


トウノコシの滝ってえのがあるね、オカイソのずっと向こうに。お寺が建ったでしょ(江ノ島大師)。

あすこんとこに、池があったのね。蓮華地の井戸のそばに池があって、その池のそばに、ジャ(蛇)がでるから、「あのまわり行って遊ぶんじゃないよ」っていうことを、むかしの親たちがよく言って。あたしたち、よく山へヤマンボウ(甘い汁の出る草)抜き行ったりなんかして遊んだけども、「あすこ行くとジャがいんから(いるから)、行かにゃあ(行かない)、おっかにゃあから(おっかないから)」って行かなかったけどさ。そうんと、腰越の八駄船が「エーンヤコゲ、エーンヤホイ」って漕いできたんだって。そしたらばね、なんとなくこうやって見たらばね、ジャが水を飲みに来てたんだって、そのトウノコシの滝のとこへ。そいだから池から出てきたんでしょ。

それを見たらばね、その人が腰越の人だけどね、モッケヤミせえの、した。それを見て熱を出したっていうのかなんていうのか、モッケヤミをしちゃってね、しばらく漁へいかれなかっただとよ。

だからそういう池のそばへ行って遊ぶんじゃねえよって、角が出てたって、だから。大蛇だよ。(明治38年生 女)

池があったのね(蓮華池)。怖いんですよ、あの池はね。

わたしたち子どもんときはね、草ボウがこういうふうに立ってんでしょ、そいで上へと池と見えんのは、ほんの少し。ボワーッと大きいんですって。

むかし大蛇が棲んでたって、よくいったとこですね。だから、リュウチエン(龍池園)っていったんですよ。だから誰も住む人がいなかったのね、ハラといったとこ。いま、お寺さん(江の島大師)なんかできてんでしょ、あすこいらみんな、草ボウボウ、萱であったの。(中略)ま、わたしたちの前はどうだか知らないけどね、わたしたち子どもんときには、「ハラへは飛び行くな、蛇がいんど(いるぞ)。大蛇にくわれちまうぞ」って、よく言われた。

そいで、むかしね、ある人が(そうだな、あのおばあさん、いくつぐらいであったろうな)、近道を通ったら、平和塔(現・植物園)のほうから大きい木が倒れてたんだって。いまでいうと、ちょうど橋がある、小高富士の見えるとこ。大きい丸太が倒れてたからさ、そのおばあさん知らないで跨いで通ったんだって。どっち通ったんだか知らないけど。そうしたらさ、それが動き出したんだって。

そのおばあさん、ずっと寝ちゃいましたよ。病気になっちゃっいましたよ。そんなようなことも聞いてますよ。

だから、ハラからその蛇が出てきたんでしょ。(シタミチは)むかしは、ふたり並んじゃ通れないほどの道であったの。(蛇を見たおばあさんは)下から通ってこっち(ヤマ)へ、お店へ出てたんだって。しばらく休んじゃった。寝ちゃいましたよ、治ったけどね。びっくりしちゃったんでしょ、木が動いたんだから。(明治36年生 女)

『江の島の民俗』
(藤沢市教育委員会)より

追記