江島縁起・安然秘所記

神奈川県藤沢市


元慶五年、相模星谷の安然和尚は江の島に春秋を送り、大法を修し練行を積んだ。すると石室に香りが満ち光がさし、天女が化現したという。それで和尚は安然秘所記に島の様子を次のように記した。

西の島山は女婦石といい胎蔵界である。南西の金窟の中には二重の内院があり、これがまた東の胎蔵界曼荼羅と西の金剛界曼荼羅となっている。弁才天はその中央に座し、左に竜樹菩薩、右に徳善大王が座す。その前に瑠璃壇があり法華経一部が安置されている。その前に池があり、中に八寸の無熱池の竜王が有る。この窟が弁才天の根本の宝宮である。

外院には八尺の倶利伽羅竜王があり、仙女たちの住する窟がある。ここは沙竭羅竜王の巌窟である。次の巌窟は白竜穴で、長さ一丈五尺の二つの白竜がいる。また禅定の仙人がおり、悪竜が窟を守っている。奥の際に池があり、その上五尺のところに穴がある。これが弁才天の在る穴である。前に松があって、金毗羅大将が窟の上方に鎮住している。

東の島山は男夫石といい金剛界である。西南の山上に蓮華池がある。水口底に水火雷電神がおり、池の西岸に聖観自在尊がいる。ここは阿弥陀仏化導有縁の地で、池の水を浴びれば罪垢が除かれ、清浄の身となる。東西の山の間に竜穴があり、ここが弁才天自然湧出の窟である。窟の中に滝があり、滝の下の池に五寸の弁才天応作の白蛇が住む。窟の白雲は国土の神気である。

島の東に聖天の生身である石島があり、上に唇の赤い八寸の白蛇がいる。雨を欲するとこの島が鳴動するので水天島ともいう。北方には五尊の吒枳尼天の生身である山がある。また東北の山中に河伯に似た三神石という霊石がある。荒神石ともいい、禍福の神鬼である。島を廻って十二の窟があり、則ち弁才天所座の十二神王である。

『江島縁起』(江島神社真名本)より要約

追記

江島縁起の最後段にある安然和尚なる僧による島の様子(島の黎明は「江島縁起・五頭竜と弁才天」より)。その内容や表記から、この部分は後世の追加文と思われるが、近世の江ノ島人気より前の様子なのではある。

とはいえそのひとつひとつを現物に比定するのも難しい。すっかり様変わりしてしまった現在の江の島ともなればなおさらである。今訪れるならば金窟とある岩屋洞窟が主となるだろうか。神社の一環として無熱池なども再現されてはいるが。

また、聖天の島というのは関東大震災の隆起で江の島本体とつながり、今はヨットハーバーへ向かう途中公園となってある。それにしても、一般的な印象よりも島中竜だらけ、蛇だらけというものであるのは分るだろう。