大蛇に呑まれた話

神奈川県藤沢市


矢尻の人から聞いた話だが、ゴーシ窪に大蛇がいたという。ずっと谷があって不動さまの南。男でもさみしいところで、今は開発されてなんでもない所だが。そこへ先山といって木を伐りに行った人が、大蛇に腰まで呑まれている人を見つけた。

その人は木につかまって呑まれないように頑張っていたが、その先山が、今助けてやるぞ、と大声を掛けクチユキで大蛇に切りかかったのに気を抜いて、つかまっていた手を離してしまった。その途端に大蛇は人をくわえたまま、すーっと沢の方へ降りて行ってしまって、助からなかった。蛇が蛙をくわえてすーっと行くのと等しいものであったそうだ。

蛇は体は小さく隠せるが、眼は隠せないという。だから眼が大きかったら油断するなといった。また、うわばみというのは青大将の大きいやつで、ヤマッカガシが大きくなったのが大蛇なんだとも聞いた。(遠藤 男 明治32年生)

『藤沢の民話 第二集』
(藤沢市教育文化研究所)より要約

追記

ゴーシ窪というのはわからないが、不動さんというのは矢尻の滝の沢不動のことだろう。その南というと湘南ライフタウンが広がる土地に変貌しており、話のような様子はもうまったくない。人を呑む大蛇がおったなど、今住む人は夢にも思わないだろう。

蛇は化けても眼は隠せないというのは他所でも聞く。大磯・小田原の漁師の話にも、シイラのような魚に化けていたが眼が蛇だったというものがある(「天城山のヌシをすくう」)。小蛇になった大蛇にも有効な話らしい。

また、うわばみと大蛇(おろち?)がどのように違う感覚なのか不明だが、ヤマカガシが特別だという感覚はままある。津久井内郷でもヤマカガシは昇天するので抜け殻が見つからないといった(「蛇」)。