大蛇に呑まれた話

原文:神奈川県藤沢市


わたしが十九か二十のころ、うちの手間をしていた矢尻の人から聞いた話なんです。その小父さんは、月に六日の手間に来ていたんですよ。夜ね、一杯飲まして、夕飯食べさせるとね、よく大蛇の話をしましたねえ。

ゴーシ窪に大蛇がいた話をしたんですよ。その小父さんだって見たんじゃなくて、もうそれは、そうとう前のことなんだね。

ゴーシ窪というと、男でも一人じゃさみしいんですよ、ずっと谷があって。不動さまの南です。今は西部開発でひらけちゃったからなんでもないけど、昔はね、男でも昼間さみしい。女なんかとても行かれないとこだったんだね。

そこへ、先山というんでしょう、クチユキだの薪割りだの鋸を持っていく人が、木を伐りに行ったらしいんだね。そうすると、大蛇に人間が腰ぐらいまで呑まれちゃってね、それから、呑まれちゃうから木につかまってね、がんばっていたらしい。そこへ先山が来たからね、「いやあ、こりゃあ大へんだ。よーし、おれが助けてやるから」って、木を伐るとき木のはじの方をきりあけるクチユキを持ってたから、そのクチユキで大蛇を斬ったんです。

おれが助けてやるからって、でかい声をかけたらしいんだね、先山の人が。そしたら、ひょいと振り向いてね、安心したっていうんかね、手をおっぱなしちゃったんだね、呑まれないように木につかまってたところが。そうすると、大蛇のやつが人間をくわえて、すーっと沢の方へおりてっちゃって、助からないんですよ、どこへ行っちゃったかね。ちょうど蛇がね、蛙をくわえてすーっと行くでしょ、あれにひとしいものだって言ってました。

蛇というものは、からだは小さく隠せるけど、眼は隠せないんだ、眼が大きかったら油断するなと昔からいいますね。

それから、うわばみは青大将の大きいやつで、ヤマッカガシが大きくなっったのが大蛇なんだと、昔の人から聞いています。(遠藤 山本良治氏 明治32年生 昭和49年10月)

『藤沢の民話 第二集』
(藤沢市教育文化研究所)より

追記