ダイノボッチャの話

神奈川県藤沢市


昔、捨子が横山大膳に拾われ育てられ、大膳様のお坊っちゃまといわれていた子がダイノボッチャとなった。ダイノボッチャが影取に出て影をうつすと東海道が荒れるといわれた荒くれ者になった。そんな風になるから、むやみに子を貰って育てるものじゃないという。

ダイノボッチャは鉄砲宿で撃たれて死んだというが、それで横山様が盗賊じゃないかと疑いをかけられた。横山様は八王子のほうの豪族で盗賊するような人じゃないのだが。小栗判官が横山様の邸に休んだ時、その財宝に目を付けたのがダイノボッチャだったという。(亀井野 男 明治41年生)

『藤沢の民話 第三集』
(藤沢市教育文化研究所)より要約

追記

無論一般には一帯の盗賊であったのは横山大膳であった、というのが小栗伝説なのだが、ここに、実はそれは大膳の継子のダイノボッチャが悪党で、大膳様は悪い人じゃなかったのだと語る話がある。小栗伝説で大膳が身請けした子といったら照手姫なのだが、上の話には姫が出てこず、代わりにダイノボッチャが語られている、という風にも見える。

まず気になるのはその呼び名で、大膳の坊っちゃまからだとあるが、一方ダイダラボッチに似ている、というのがある。茅ヶ崎市芹沢のほうには「ダイダラボッチ」(巨人とはいわない)が人を食ったという話があり、荒くれ者にその名が使われたかもしれない、というのはある。

また、ダイノボッチャが影取に影をうつすと、とあるところも気になる。影取には人の影を取る大蛇がいたという話があるのだが、その蛇が影を取った上に飯酒を巻き上げたということもある(「影取の地名説話」)。この二者にも通じるところがあるのか、とも思われる。