神奈川県鎌倉市


蛇は鎌倉の名物というほどに多く、とくに大船から上町屋あたりは竹の棒で地面を叩きながら歩くほどだった。蛇はマムシの他、ヒマワリ、地モグリ、青大将、山カガシ、しま蛇、弁天様などがいる。ヒマワリは腹に青色の市松模様がある。弁天様は山カカシの大きなもので背中に金筋があり、体は黒い。

山ノ内の爺さんが山芋掘りに行って直径二十センチもある大蛇に出会って寝込んだり、津の初田でも、そのくらいの大蛇が出て、見た蛇嫌いの人は一週間ほど寝込んだという。

十二所のおばさんも番場ヶ谷で背中に金筋があって鱗がコケラのようになった大蛇にあったが、毒を吹っかけられて一年ぐらいぶらぶらしてしまった。嫌いだと蛇に息をふきかけられるから、出会ったときに人間の方で呑んでしまわないとやられる。

また、マムシは必ず殺さないといけない。見逃すとマムシが「今日は盲に出あったからこの次には、きっと食いついてやる」といっている。魔ものは殺さなくてはならぬものだ。

『鎌倉の民俗』大藤ゆき
(かまくら春秋社)より要約

追記

怪異としての蛇の話も多い鎌倉だが、そもそもこのように蛇の多い土地だったという。谷戸の集合体のような所なのでさもありなんというところだが。

目を引くのはヤマカガシやマムシがやはり特別視されているらしいところだろうか(津久井の「蛇」など参照)。特にヤマカガシは昇天する蛇だと各地でいわれ、これを弁天様と特別に呼んでいるのは興味深い。

また、江の島や(「蓮華池の大蛇」)全国各地でいうが、大蛇に出会うと「ぶらぶら病」とか「モッケヤミ」なるものになってしまうという。ただ床につくとかではなく、独特の症状があったらしい。今の鬱病のようなものだろうか。