原文:神奈川県鎌倉市


蛇、マムシは鎌倉の名物といわれるほど、今もいるが以前はどこにでもたくさんいた。とくに大船から上町屋あたりには多く、夏は小道に縄を編んだように重なりあっていた。危いので長い竹の棒で地面を叩きながら歩いたものだという。蛇はマムシの他、ヒマワリ、地モグリ、青大将、山カガシ、しま蛇、弁天様などがいる。ヒマワリは腹に青色の市松模様がある。弁天様は山カカシの大きなもので背中に金筋があり、体は黒い。

山ノ内で気丈なぢいさんが長芋掘りに行ったら、頭の上の木から直径二十センチ、長さ二米もある大蛇がおおいかぶさってきた。おっ玉げて大鐘の鐘つき堂まで逃げてきたが、おびえてそのあと寝込んでしまった。

津の初田の池にも直径二十センチくらいの大蛇がいた。あるとき九十三才のおじいさんが、六十四才のイセキと二人で山仕事にゆき、池のそばで山弁当を開いて食べていた。食後二人はそこへ寝ころがって休んでいた。おじいさんがひょいとそばの草むらをみると大蛇がながながと寝ている。「おい大蛇だぞ」といったら、イセキは大の蛇ぎらいなので、一目散に逃げだし、その後一週間くらい寝込んでしまった。

十二所のおばさんが番場ヶ谷の山へ草刈りに行って、背中に金すじのある、ウロコがコケラのようになった直径二十センチもある山カガシが、トグロをまいて頭をもたげ、まっ赤な舌をペロンペロン出しているのに出会って毒を吹っかけられた。おばさんはその後一年くらいぶらぶらしてしまった。きらいだと蛇に息を吹きかけられるからで、出会ったとき人間の方で蛇を呑んじゃえばよいが、そうでないとやられる。

参考:マムシ

マムシに出会ったときは必ず殺さなくてはいけない。もし見逃すとマムシが「今日は盲に出あったからこの次には、きっと食いついてやる」といっている。魔ものは殺さなくてはならぬものだ。

『鎌倉の民俗』大藤ゆき
(かまくら春秋社)より

追記