久留和の大蛇

神奈川県横須賀市


これは祖母から聞いた話です。

久留和のある家では、若宮様という小さい社を祀っていた。むかし、この家のおじいさんが、正月にオカンと呼ばれる供え物を持って若宮様にお参りに行ったところ、道の真ん中に大きな蛇が横たわっていた。おじいさんは腰を抜かすほど驚いたが、蛇の邪魔をしないようによけてオカンをしに行った。この家はその後どんどん栄えたが、それは蛇をまたいだりいじめたりしなかったからだ、と言う人もいた。

久留和にはベンテンサマと呼ばれる赤っぽい蛇がいた。田んぼの用水や海老田川を泳いでいる姿は、なかなかきれいだった。

『新横須賀市史 別編 民俗』
(横須賀市)より

追記

このような家の周りに出る蛇は、ままその家の守護神とされるが、それはその蛇が祖霊がこちらに出てきている姿だからだ、と語る話がままある(「死者と蛇」など)。屋敷神への途上にいた蛇ということで、この久留和の話もその傾向が強いだろう。

久留和の北の尾根は大蛇に見立てられるという土地でもあり(「峰山の大池」)、土地全体の主と家の守護神とが蛇だとして、その関係が考えられたりしたのだろうか、という興味もある。

ベンテンサマと呼ばれた蛇はヤマカガシのことだろう。鎌倉の方では大きなヤマカガシをそう呼んでいたという(「蛇」)。このあたりでも野の主のイメージがあるのがヤマカガシで、家の主のイメージがあるのはアオダイショウだ。