ダイラボツチの足跡

神奈川県相模原市中央区


武藏相摸などの國人が常にダイラボツチとて形大なる鬼神のやうにいひあざむものあり相摸野の中に大沼といふ沼ありそれはダイラボツチが富士の山を脊負はんとせし時足をふみしあと也といひまた此原に藤のたえてなきはそのをり脊負し繩のきれたれば藤をもとめけれどもなかりしゆゑの因縁也といひつたへたり笈埃随筆にも大多法師が足跡と云ふ事を記したり與淸按に台記久安二年九月廿七日の條に此日詣石山寺云々見閼伽井乗惠曰道塲法師以爪掻出此水又有道塲法師屐跡井一二石と見え本朝文粹日本靈異記舊本今昔物語などにも道塲法師が怪力のよしあればそのころことごとしく世にいひつたえけん諺が今になほ田舎にのこれるなるべし

『松屋筆記』小山田与清より

追記

文化から弘化あたりに編まれた『松屋筆記』の記事。相模原市と周辺には巨人の伝承が多いが、このように近世の記録があることが柳田などにも注目され、早くから話の採取、検討が行われた、という面が強いだろう。

記事中大沼とあるのが、今の大沼神社あたりにあったという大沼なのかどうかはよく分かっておらず、続く調査では大沼神社周辺では巨人の伝承はあまり聞かれない(市史など)。藤づるの話なども鹿沼・菖蒲沼のことと見られている(「でいらぼっち伝説」)。

また、相原のほうの報告(「相原のでいらぼっち伝説」)など、巨人の話と力持ちの話を併せ載せるが、各地のダイダラボッチの報告に特に強くその傾向があるというわけではないので、これも上の記事の影響といえるかもしれない。