宮司の葬儀に白い蛇が姿を見せる

神奈川県川崎市中原区


日枝神社の先代の宮司が死んだときに、四、五人の子どもたちが境内で白い蛇を見た。ちょうど出棺のときで、大人たちは火葬場に行っていた際だという。白い蛇が本殿から出て来て、御神木の大杉のほうへ行ったという。

大杉は昔、五反田から見えるくらいの大きな木で、落雷で根元だけ残っていたが、そこにお宮の守り神の白蛇がいるんじゃないとか、いたとかいわれている。

『川崎の世間話』「川崎の世間話」調査団
(川崎市市民ミュージアム)より要約

追記

丸子の日枝神社の話。ここの神社は「おびしゃ」の神事に、図星に竜蛇の鱗を描いた的を用いる。逗子神武寺境内の山王社で昔竜蛇退治の伝にもとづく弓の行事があったが(「神武寺山王社」)、同じような意味合いだろうか。この周辺には竜蛇退治の伝説はないが。

多摩区菅の子之神社の歩射では、的の図星の裏に「鬼」の字が書かれ、これを射抜くことが村内安全だというので(角田益信『川崎の民俗』)、同様するならやはり禍を竜蛇としてそれを射るの意だろう。

ところが上の話のように、その社の御神木に棲む白蛇が守り神で、宮司の葬式に現れたなどというと話がややこしくなってくる。かつて退治された竜蛇が悔い改め守り神となるというのもよくある話(逗子の方もそう)。なのではあるが。

また、山王さんが竜蛇と関係するのかどうかという点だが、鶴見の大蛇伝説を持つ山神社は川崎の田島の山王社と深い関係があったようだ(「山神と祭られし大蛇」)。

内房へ行って木更津などにはそういった山王さんが見える(「山王沼の主」)。日本武尊の悪蛇退治にまつわる社もあれば、大蛇の棲む沼もありと、丸子の話を考える上でも参考にすべきものといえるかもしれない。