影取り池
東京都多摩市
影取り池には二つの伝説がある。ひとつは小山田城が落城した際、小山田太郎の奥方が逃げてきて影取り池で死に、それ以来すすり泣きが聞かれ、影を池に映すと引き込まれるようになったという話。
もうひとつは、池のところにお姫様が出てきて、声をかけるので近づき、池に影を映すと引き込まれてしまうというもの。これで村が難儀したとき、通りかかった坊さんが法力で姫を昇天させてくれたという話がある。
池にはヌシがおり、尾根道を通り朝日で池中に影が映ると食べられてしまうのだといった。その池も昔大嵐で堤防が切れて大ビャク（山崩れ）ができて、深い田んぼになってしまった。井戸を掘るのに九尺掘ったら木が出てきたという。
『多摩市の民俗（口承文芸）』
（多摩市史編集委員会）より要約
追記
六つほど採録されている伝説・世間話をまとめた。小田急多摩線唐木田駅南西側に池はあったという。今の大妻女子大学西側になるそうだが、近くに伝の標示もあるそうな。また、近く棚原の森のヌシの大蛇が池と行き来していたなどともいう（「棚原のヌシ」）。
一方、小山田太郎奥方入水の池の話としては、町田のほうでは現存する長池がそうだともいう。そもそも影を取るヌシの話と入水した奥方の話は別であったとも思われるが、伝説の池の所在がわかれるところにもそれが伺われる。
また、藤沢や川崎の影取り池の話と比べて注目したいのは、その池が山崩れで失われているところだろうか。川崎の有馬の影取り池の伝説もそうだった（「有馬の影取り池」）。
藤沢では埋まったという話はないが、記録のそもそもから「かつて池があった」であるという点では失われた池ではある。そう思うと、あるいはそういった池跡につく名に「影取」がある、という可能性もある。