雨乞の毛なし池

東京都葛飾区


周囲150メートルある毛なし池は、大昔の中川の決壊でできた。当時、その決壊口に白蛇が棲みつき、人々が恐れて決壊口を塞がず、そのままになったのだという。それから何百年が経ち、池の北西に青竜神社として、上州榛名神社の分神が勧請された。

この神さまは雨乞いの神とされ、毛なし池の白蛇はその神使いと崇められた。旱魃には、池の水を田に注げば日を置かずに雨が降るといわれ、村は講中を結んで榛名山の水を運びもしたそうな。毛なしとは、飢饉のない池の意だという。

『かつしかの昔ばなし』萬年一
(葛飾文化の会)より要約

追記

葛飾区高砂は中川縁の怪無池という池が引いた話の池。地図上「怪無」と書くが、口承などでは多く上のごとく「毛なし池」という。「毛は毛渇・毛竭で東北地方の飢饉の意味で」とあり、別の資料にもある。それがない池、飢饉を無くす池の意だということだろう。土地の雨乞いの池であった、という点だけでもそこは符合する。

もっとも、土地の伝としては、ここで怪我をしたり、溺れたりした人がいない「怪我無し」のことだとか、物の怪などいない「怪無し」の意だとかいったようで、公式表記はそうであり、区史にも専らにそうある。

そのあたりはまた各地の毛無森だとか毛無山だとか(割と散見される名)はどうなのかという比較が必要だろう(「立根のお滝さま」)。そこに怪異が語られる場合は荒救への備えである可能性がある。

やはり「飢饉の無い」という説は魅力的だ。そして、葛飾には実はもうひとつ堀切の、今、菖蒲七福神が置かれている辺り「毛なし池」があった(「堀切の毛なし池」)。併せ見ておかれたい。

また、話の青龍神社が全焼したときに、宝物の大観画という龍の掛け軸だけ焼け残ったという話もあるが、その火事のちょうど同時期に、北隣新宿で大蛇の姿が浮かび出た(「新宿を守る竜神さま」)、などという話もある。