真菰が向ってくる

千葉県柏市


ある人が流山から若柴までくると、なんだかわかんねぇが風もないのに
「ゴーゴー」
という音がしたもんだから、なんだべえと思っていると、こんぶくろ池の方から真菰がバタバタと倒れながらこっちの方に向かってくるのが見えた。

「こりゃー、池の中に住んでいる大蛇じゃねえか。」
と思い、おったまげて観音さまの境内にとびこんで一生懸命手を合わせて拝んでいたという。(話 渡辺武雄)

『こんぶくろ池 ─池についてのむかし話─』
こんぶくろ池保存の会(柏市教育委員会)より

追記

こんぶくろ池は今も国立がんセンターのそばにある。曰く蛇の主がいるとか、いや主は鰻だとか(このあたりは手賀沼に倣う)、色々の伝説に取り巻かれた池だが、そのあたりはさて置く。

ここではそのこんぶくろ池の大蛇の移動が目撃された様子が語られているのだが、大蛇の姿そのものは見えていないところが注目される。野分でもってその移動を語るのはここもそうなのだが(「大蛇の逢いびき」)、上の話は不可視の大蛇が真菰を分けていく様として見られているのだ。

大蛇がいるようだが、誰も見たものはいない、とは常套の語り口なのだが、時折そもそも大蛇とは見えぬものだというところがある(「田ノ浦のおろち」など)。こんぶくろ池のこの話もその一環といえるかもしれない。