権現様の森の大蛇

埼玉県北足立郡伊奈町


昔、伊奈氏の氏神のある権現様の森で、職人が薪を割っていた。一休みしようと松の木に腰掛け、キセルで松の木をたたくと、その松の木が動き出した。松と思って腰かけたのは胴回りが三〇センチもある大蛇だったのだ。

職人は追いかけてくる大蛇から大慌てで逃げ帰ったが、家に着くと倒れこんでしまった。妻は必死に介抱したが、職人は「こわい、こわい」と叫びながら死んでしまったそうな。(『ふるさと伊奈』)

『伊奈町史 民俗編』
伊奈町教育委員会(伊奈町)より要約

追記

話の内容は、倒木と思って腰かけたのが大蛇であった、という枚挙にいとまなく語られるものだが、この舞台が「頭殿社」のある丸山の権現森であるところが重要となる。

その正体がよくわからない尉殿・重殿といった神の問題があるが、それが蛇であると語るところがままあり、この話はそれを補強するものとして参照される。丸山の蛇は南側の丸山沼の主であるともいう(「丸山沼の大蛇」)。