クワトリビナ

群馬県藤岡市


鬼石町あたりでは、四月三日にヒナ祭りをする。ヒナ位置も開かれ賑やかになるが、節供が過ぎ、ヒナ人形をしまうとき、鬼石や三波川では、古いヒナ様を一体、桑畑に持って行く風習があった。

「ヒナ様を桑つみにやる」とか、「クワトリビナを出す」とかいって、ヒナ様の人形を畑の桑の株の上に載せて、供えものなどした。ヒナ様が桑畑を守っているようでもあった。ヒナ祭りは人形にけがれを移して、海や川へ送り出すヒナ送りでもあったが、この辺りでは桑畑に送り出した。

『ふじおか ふるさとの伝説』関口正己
(藤岡青年会議所)より要約

追記

神流湖も間近の鬼石の話。竜蛇の話ではないが、いくつかの蛇にまつわる話から参照される話として引いた。

ひとつは、武州北部から上州にかけて信仰された「おきのさん」人形の話から参照したい。おきのさんは相州淵野辺から来た信仰で、養蚕を手伝う蛇の化身の娘をかたどった人形だが、桑畑に置かれる人形としてはふさわしい。

この鬼石のクワトリビナが、おきのさんと直接関係のあるものだとしても、関係なく構成されたものだとしても、比較して考えねばならぬところが大きいといえるだろう。

また、方面としては東から北の方だが、東北にかけて見られる、ムケの朔日の話とも併せ考えたい。ムケの朔日とは、旧六月朔日には人間も蛇のように脱皮し、その脱け殻(むけがら)が桑畑に見られる、というもの。一体、桑畑というものはどういう場所だったのだろうか。

上の話でも「ヒナ人形に人のけがれを移して、海や川へ送り出す祭りだったから、この地方では桑畑へ送り出したものでしょう」と、当たり前のことのように書かれている。ヒナが流される先を置換して当然の場所と思われていたようだ。