おきのさん

埼玉県熊谷市


埼玉県の北部西部で、広くおきのさん・おきよさん・おきぬさんなどと呼ばれる紙人形が祀られた。お勝手や台所に祀られ、お勝手の神様で蛇の化身と伝えられた。

子供の着物の切れ端で着物を作り、髪と顔は障子紙で作って、昔は目鼻をつけなかったが、最近は目鼻を描いて紅をさす。毎年一体作って、古いものは川に流した。主婦が、唱え言とともに、お水とご飯を供えた。珍しいご馳走の時は、必ず供えたという。

ある家で二体祀ったら不幸があったので、以来その家では一体にして祀るという。女の神様、お蚕さんの神様といったが、主婦はお勝手で働くことが多いので、身近に手を合わせられる有難い神様であったという。(樋春他)

『江南町史 資料編5 民俗』
江南町史編さん委員会(江南町)より要約

追記

これは相州淵野辺の皇武神社に起こったおきぬさん信仰(「皇武神社のおきぬさま」)の広がりである。もとは養蚕を助けてくれる蛇の女神としての信仰だったが、このようにお勝手に祀られ、よろず主婦の願いを聞くようになってもいた、というのは面白い。

それがどこまで敷衍した話だったのかは不明だが、二体祀ると良くない、というのも興味深いところだ。また、蛇であるという点はよく浸透していたようで、同じ江南の話として、蛇そのものをオキヌさんと呼んでいたなどともある(「オキヌさん」)。

なお、人形を川に流したという点に関して、おきぬさんではないのだが、桃の節句の雛人形を桑畑に置いた、という話が鬼石の方にある(「クワトリビナ」)。関係は不明だが、併せ想起したい光景ではある。