軒菖蒲の由来

栃木県さくら市


昔、おじいさんとおばあさんと娘が暮らしており、娘にはなかなか婿が見つからなかった。そうしているうちに、娘の帰りが遅くなることが続き、心配して尋ねてみても答えないのだった。しかし、娘のお腹がばかに大きくなって来て、さすがに隠し通せなくなった。

娘は、男といい仲になって、毎晩迎えに来るのだという。そこでおじいさんとおばあさんは、今度男が来たら、着物に針で赤い糸を縫い付けて追うよう教えた。娘が言う通りにし、赤い糸をたどってみると、糸は沼地のほうへ続いていた。

男と思っていたのは沼の主の大蛇に違いない、と驚いた娘が、またおじいさんとおばあさんに教えられ、菖蒲の葉とよもぎを入れた風呂に入ると、腹の中の大蛇の子は堕りた。これより、大蛇など来ないようにと、軒先に菖蒲の葉とよもぎの葉を突き刺すようになった。

『氏家むかしむかし』石岡光雄
(ヨークベニマル)より要約

追記

氏家のどこの話か分からないが、土地の伝説ではなく昔話なのでそこは良いだろう。菖蒲湯・軒菖蒲の由来として、また蛇聟入の話として、ほとんどこれ以上ないくらい枝葉を落とした典型の筋といえる。

菖蒲湯や軒菖蒲の由来には、一方で食わず女房の話型でそれを語るものがあるが、氏家にはその話もある(「食わず女房と軒菖蒲」)。同じ地域で双方語られていたというのは面白いだろう。

より近しい範囲で両方の話が得られた例としては、相州茅ヶ崎の下寺尾で、同字内で、しかも同年代の男女が語っていた(「しょうぶ湯」など)、という所がある。参照されたい。