おるい峠の大蛇

山形県西置賜郡小国町


昔、新潟と山形の境の山中に、六代目の狩人がいた。狩人は六代目まで続くと悪いことが起こるという。ある日、狩人は大蛇を仕留め、味噌漬けにした。大蛇の味噌漬けは万人にまたがれないと食べられぬという。それで、狩人は女房のおるいにも、人に頼まれても食わせてはならぬと言い置いて、壺を埋めた。

ところが数ヶ月後、狩人の留守に坊主が来て、大蛇の味噌漬けは癩病に効くと聞いたので、食わせてくれ、という。おるいはあまり頼まれるので、坊主に味噌漬けを一切れやり、自分も少し舐めて見た。するとこれがとてもうまく、止まらなくなって全部食べてしまったが、その途端、おるいは喉が渇いて仕方がなくなった。台所の水を飲んでも足りず、川の水を飲み、それでも足りずに川を遡って、しまいに大蛇になってしまった。

それから数年。新潟と山形の境の峠でゴゼ様が琵琶を弾いていると、美女が現れ、琵琶の音に聞き惚れた、といった。そして、自分は大蛇で、これから山を三回半回って、すみかをつくるが、あなたにだけ教える、といった。さらに、他言をすれば命はないといって消えた。

ゴゼ様は恐ろしくなって、峠を下り、皆にこのことを話し、大蛇は鉄の棒が嫌いだということを教えた。ゴゼ様はそれで死んでしまったが、皆は山の周りに鉄の杭を打った。すると、山が鳴動して、大蛇は死んだという。この大蛇が実はおるいだったので、この峠を「おるい峠」と呼ぶようになったのだそうな。

話者 佐々木(米沢市峠) 採集 高野美喜子

[web]東北文教大学短期大学部
民話研究センター
民話アーカイブ「置賜のむかし」より要約

追記

「蛇になったお里乃」の名で知られる話。上に引いたのは典型話からはやや外れた類話で、大筋は違わないが、細かなところに特色がある。舞台は移動するが、大筋がより典型に近いものとしては「おりや峠の蛇」などを参照。

ここでは特に、大蛇の味噌漬けの部分に注目して引いた。蛇の味噌漬けはどこでも制約がつくものだが、大概は漬ける年数である。それが「万人にまたがれないと食べらんね」というところが目を引く。

これは、胞衣(後産)の扱いに通じるところがあるのじゃないか。胞衣に関しては、それを埋めたところを最初に踏んだ(通った)人・動物を恐れるようになる、とするものと、埋めたところを多くの人が通ると(踏むと)、子が丈夫に育つ、とする話などがある。