竜光山にまつわる話

千葉県鴨川市

昔ある嵐の後、若い漁師が砂浜で漁村の娘とは思えない美しい娘と出会った。娘は嵐に漂流し流れ着いたのだという。若者は空腹につらそうな娘を自分の粗末な小屋に案内した。一宿を乞うた娘は、そのまま小屋に居着き、家事などするうちに若者と結婚することになった。

漂流してきたのに少しも濡れてなかった、と訝る仲間の心配をよそに、若者と娘の間には男の子も生まれ、幸せな三年の月日がたった。ところがその頃、急に娘が夜になると家を抜け出すようになった。そして、娘はついには別れを切り出してくるのだった。

いわく、自分は竜宮の娘で、かつてワニザメに襲われたところを若者に助けられたことがあったのだ、と。父母にも言われ、一週間という期限で恩返しに来たのだが、情にほだされ子どももでき、三年もたってしまったのだ、と。そうして被っているかつぎをとった娘の顔には片目がなかった。

娘はこれまで片目をなめさせ坊やを育ててきたのだという。竜宮の父母に知られると叱られるのでかつぎをかぶっていたのだ、と。しかし、それもこれまで。自分には竜の許嫁もおり、これを過ぎればもう竜の仲間に戻れなくなってしまうのだ、と娘は言った。

娘は坊やが泣いたらあげるように、ともう片方の目もくりぬき与え、子が大きくなってまだ残っているようなら、それを海へ向けて光らせれば自分に届くから、と言った。そして、せめて坊やが六つになるまで、と止める若者の頼みも聞き入れられず海へと去った。

男の子は十五歳になった時、母と再会したという。父に話を聞いたその時、まさしく両眼のない竜が海から陸へと体をうねらせたのだそうな。その後、立派な網本になった男の子は、父母の碑を山上に立てた。その山を、竜光山という。

鴨川市郷土資料館『長狭地方の民話と伝説』より要約

鴨川市の大型竜蛇伝説。色々な資料で紹介されているが、肝心の「竜光山」がどこなのか現状不明。おそらくあて山として際立つものなのだと思うが、雨を降らせる山としても知られ、三匹の「竜頭の獅子舞」が奉納されたという(『房総文化』9号)。これは旧鴨川町区のこととなっている。

ともあれ、蛇女房の話というのは、土地の伝説とまでなっている例はそう多くはない。ましてや、竜宮女房の話ともいえる例というのは(印象と異なり)かなり限られてくる。それが房総半島の先端にはやはりある、という意味で非常に重要な伝説ではある。