昔ある嵐の後、若い漁師が砂浜で漁村の娘とは思えない美しい娘と出会った。娘は嵐に漂流し流れ着いたのだという。若者は空腹につらそうな娘を自分の粗末な小屋に案内した。一宿を乞うた娘は、そのまま小屋に居着き、家事などするうちに若者と結婚することになった。
漂流してきたのに少しも濡れてなかった、と訝る仲間の心配をよそに、若者と娘の間には男の子も生まれ、幸せな三年の月日がたった。ところがその頃、急に娘が夜になると家を抜け出すようになった。そして、娘はついには別れを切り出してくるのだった。
いわく、自分は竜宮の娘で、かつてワニザメに襲われたところを若者に助けられたことがあったのだ、と。父母にも言われ、一週間という期限で恩返しに来たのだが、情にほだされ子どももでき、三年もたってしまったのだ、と。そうして被っているかつぎをとった娘の顔には片目がなかった。
娘はこれまで片目をなめさせ坊やを育ててきたのだという。竜宮の父母に知られると叱られるのでかつぎをかぶっていたのだ、と。しかし、それもこれまで。自分には竜の許嫁もおり、これを過ぎればもう竜の仲間に戻れなくなってしまうのだ、と娘は言った。
娘は坊やが泣いたらあげるように、ともう片方の目もくりぬき与え、子が大きくなってまだ残っているようなら、それを海へ向けて光らせれば自分に届くから、と言った。そして、せめて坊やが六つになるまで、と止める若者の頼みも聞き入れられず海へと去った。
男の子は十五歳になった時、母と再会したという。父に話を聞いたその時、まさしく両眼のない竜が海から陸へと体をうねらせたのだそうな。その後、立派な網本になった男の子は、父母の碑を山上に立てた。その山を、竜光山という。