竜の目

千葉県南房総市

盲目のおりゅうという女が生まれたばかりの子を抱いて白浜の宝杖院を訪ね、御前さんに、わけがあって育てられないから預かってくれ、泣いたらこれをしゃぶらせてくれ、と言って、子を託し、布に包んだものを置いていった。

包みの中には白っぽい玉が二つあり、しゃぶらせると子は泣きやんだ。あるとき池端の柳が邪魔なので、御前さんが植木屋に切らせると木から血が吹き出し、驚いて切るのをやめた。

するとその晩、御前さんの夢枕に目のない竜が立ち、あずけた赤ん坊が心配で柳となって見守っているから切らないでくれ、と言った。子がしゃぶる玉は、竜の目玉なのだった。宝杖院さんの柳は、百年以上も、もっと前からの木で、今でもある。

白浜町『白浜の民話』より要約

「おりゅう柳」といったら普通は三十三間堂の棟木となった大柳の精の子を生んだ女という話だが、安房白浜にはこのような「おりゅうさん」の話がある。「おりゅう」が柳と竜蛇の両方を暗示する名となっている事例。

「宝杖院」というお寺は不明。南房総市のサイトに同じ話が紹介されているが、そこでは「杖珠院」となっている。杖珠院は里見氏の菩提寺だが、この伝説は日本民話の会が「海女の語る民話」で採取したものだそうで、その語り口では「白浜の山の麓に、宝杖院さんちゅうお寺さんがあったでよ」と過去形で語られるので、今はないお寺でよいという気もする。

ともかく、柳というのは「りゅう」と「(や)なぎ」の両方の音でもって竜蛇とつながる木であって、死んだ大蛇の化身が柳となるという話も数多い。白浜の話はそこからさらに産女や子育て幽霊の話のイメージへもつながっていくような雰囲気のある貴重なものと言えるだろう。