昔、ある夜喜多院に美しい娘が来て、和尚に百日の間鐘を撞かないでくれと頼んだ。和尚は人助けであるし構わなかろうと、鐘を撞かなかった。ところが、百日目の夜、前と違った美しい娘がやって来て、今度は今夜一度だけ鐘を撞いてくれという。
和尚は一度だけなら前の娘もわかってくれようと鐘を撞いた。鐘は素晴らしい余韻を残して鳴ったが、途端に鐘を撞くよう頼んだ娘は恐ろしい竜となり、風を呼び天に舞い上がって消えた。
そして、もう一度鐘を撞くと、何の余韻もない悪い音がした。その時、南より大きい音がし雷雨となり、暴風が和尚をくるくるとまわし、九十九回も回ったそうな。嵐がおさまると、和尚はこれは前に来た娘の祟りと思い、その後山内では鐘を撞かなくなり、鈴を鳴らすことも禁じられた。