山内禁鈴・二人の竜女

埼玉県川越市

昔、ある夜喜多院に美しい娘が来て、和尚に百日の間鐘を撞かないでくれと頼んだ。和尚は人助けであるし構わなかろうと、鐘を撞かなかった。ところが、百日目の夜、前と違った美しい娘がやって来て、今度は今夜一度だけ鐘を撞いてくれという。

和尚は一度だけなら前の娘もわかってくれようと鐘を撞いた。鐘は素晴らしい余韻を残して鳴ったが、途端に鐘を撞くよう頼んだ娘は恐ろしい竜となり、風を呼び天に舞い上がって消えた。

そして、もう一度鐘を撞くと、何の余韻もない悪い音がした。その時、南より大きい音がし雷雨となり、暴風が和尚をくるくるとまわし、九十九回も回ったそうな。嵐がおさまると、和尚はこれは前に来た娘の祟りと思い、その後山内では鐘を撞かなくなり、鈴を鳴らすことも禁じられた。

池原昭治『川越の伝説』
(川越市教育委員会)より要約

川越大師と呼ばれる喜多院には、山内で鈴を鳴らすことを禁ずるという「山内禁鈴」の不思議があるという。実はあと二つのいわれの話があるのだが、現在喜多院のサイトなど見ると、この二人の竜女の話が主たるいわれとなっているようだ。

竜蛇には鐘(の音)を好むものと嫌うものがいて、それぞれどちらかの理由で鐘を水に引きずり込んだりするのだが、ここでは両方の竜女が登場している。一話にこの両面がある以上、そもそも「両面がある」ことは意識されていたのだろう。この前提は竜蛇と鐘のことを考える上で重要だ。