昔、喜多院の何代目かの住職で、たいそう蛇好きな人がいた。毎日鈴を鳴らして餌をやったので、蛇たちも鈴の音を楽しみにしていた。蛇たちは喜多院はもちろん人家にも決して迷惑はかけなかった。ところが、この住職さんが病に倒れ、帰らぬ人になってしまった。
そして、その後住職となった人は、蛇と聞くだけで寝込んでしまうほどの蛇嫌いで、寺のものは気を使って鈴を鳴らさなかった。そうするうちに蛇たちは飢えて死に、あるいは他に移り、長い年月が過ぎて、ただ一匹だけが残った。
そんなとき、喜多院に物売りがやって来て、鈴を鳴らして山内に入って来た。途端に一匹の大蛇が飛び出し、人々は腰を抜かさんばかりに驚き逃げ去った。大蛇は鈴の音に餌がもらえるものと喜び飛び出したのに、食べるものは何もなく、怒って大暴れをした。
それより、喜多院の山内では鈴を鳴らすことが固く禁じられ、寺にある鈴には、決して振り子をつけないようになったという。