蛇ぜめにあった村のてえ

群馬県高崎市

村の榛名神社の屋根が古くなって、屋根葺きをした。神社の屋根は大きいので、集めた萱が境内に山となった。屋根を葺くのには何日もかかった。ところで榛名神社には蛇がたくさんいるといわれていたが、屋根葺きをしていても一匹も見られなかった。

そこである村のてえ(村の衆)が、榛名神社には蛇がうんといるという話だが、からうそだなぁ、といった。村の人たちは、そんなことはない、神さまの使いだから姿は見えないんだと諭したが、その村のてえは信用しなかった。

ところが、夕方になってみな家に帰る時、神社に蛇なんかいないといった村のてえが、神社近くの大きな銀杏の所へ来ると、銀杏から何かが大きな音を立てて落ちてきた。それはたくさんの蛇で、おびえるその村のてえの周りをいっぱいになって取り囲んでしまった。

村のてえは、疑って悪かった、お助けになって、遠くのくわばら、遠くのくわばら、といいながら、青くなってぶっ倒れてしまった。家の者が帰らないので探しに来ると、村のてえが蛇に囲まれてぶっ倒れていたという。榛名神社の悪口をいったので蛇ぜめにあったのだ、と噂になった。

酒井正保『前橋とその周辺の民話』
(群馬県文化事業振興会)より要約

榛名にまつわる信仰にはそういった二面があって、この高崎のどこかの村の榛名神社にも、蛇が使い神だという感覚があったのだろう。平成の合併前の高崎市域にも複数の榛名神社があるので、どこのことかは現状不明。あるいは倉渕村の椿名(つばきな)神社か。