蛇ぜめにあった村のてえ

原文

むかし、蛇(へび)ぜめにあった人がいたんだとさ。

村にある榛名神社の屋根が古くなって、雨むり(雨もり)がしてしょうがねえんだと。村の人たちゃあ、相談して、神社の屋根ふきぃすることにしたんだとさ。

村の人たちゃあ、めえんち(毎日)めえんち、やめへ(山へ)やんで(行って)、屋根にふく萱ぁ刈ってきたと。それで、神社のけえでえ(境内)は、刈って来た萱で山のようんなったと。村の人たちゃあ、総出で屋根ふきぃしたんだと。神社の屋根ぁでっけえんで、屋根ふきも、幾んちも幾んちもかかったと。榛名神社にゃあ、蛇がうんと(たくさん)住んでるちゅう話が、昔からいわれてたんだと。ところが屋根ふきぃしてても、一匹も蛇が出て来なかったと。

ところが、村のてえ(村の衆)の一人が、

「榛名神社にゃあ、蛇がうんといるちゅう話だが、一匹もめえねえや。蛇が住んでるちゅうなあ、からうそだのお」

ってゆったと。ところが村の人たちゃあ、

「そらあうそだ。蛇ぁ、神さまの使いもんだから、姿ぁ見せねえんだ」

ってゆったと。

だが、その村のてえは、それえ信用しなかったんだとさ。

夕方んなって、村の人たちゃあ、屋根ふき仕事をしまって、自分のうちぃ向かって、けえって来たと。ところが、

「神社に蛇ゃあいねえ」

ってゆった村のてえが、うちぃけえるんで、神社の近くの、でっけえいちょうの木の所まで来ると、いちょうの木から何か、バターンって、でっけえ音を立って、落っこちて来たんだと。村のてえは、なにが落ちたんだと思って、近寄ってみると、それぁ蛇なんだと。村のてえがびくついて(びくびくして)ると、蛇が、その村のてえのまありぃ、いっぺえんなって、村のてえをとり囲んじゅまったんだとさ。村のてえは、

「榛名神社になんか、蛇ゃあいねえ、なんてゆって悪かった。わしらがあ(私を)おたすけになって。遠くのくわばら、遠くのくわばら」

ってゆったまんま、青くなって、ぶったおれちゅまったと。

村のてえのうちのもなあ(者は)村のてえがけえらねえんで、ちょうちんのぉつけて、さがしに来たと。すると、大いちょうの下で、蛇に囲まれて、村のてえがぶったおれているんだとさ。

うちのもなあ、

「こらあ榛名神社の悪口ぃゆって、神社の蛇ぜめにあったんだ」

ってゆったんだとさ。

酒井正保『前橋とその周辺の民話』
(群馬県文化事業振興会)より