昔、お諏訪さまから蛇を借りてひどい目に会った人がいた。この村ではけえこ(蚕)をはきたてると、ねずみにけえこを食い荒らされるので、村のお諏訪さまに空の籠を背負って行って、拝んで蛇を借りてくるのだった。しかし、その蛇は見えるものではないので、ある村のてえ(人)が疑ってかかった。
そのてえは空っ籠を背負ってお諏訪さまに行き、うんとでっけえ蛇ぃを貸してくれるよう拝んで、笑いながら帰った。ところがいつもと違って背負っている籠が重くなっていく。それでも村のてえは、お諏訪さまが蛇ぃ入れてくれるわけはねぇ、と帰り道を進んだ。
ついには籠が動き始めたので、手を入れてみると、冷たく太い手触りがある。村のてえは、拝んだ時は蛇ぃ入れるのは見なかったんだ、へえっているわきゃあねぇ、と家に飛んで帰った。
そして、籠をぶちおろしてみると、果たしてその中には、でっけえ蛇がたぐろを巻いて、舌をぺろりぺろりと出しているのだった。村のてえは、お諏訪さまがふんとうに蛇ぃ貸してくれた、勘弁してくんな、と蛇に謝ったという。