龍巣院

静岡県下田市

箕作は天城山への道で、今の県道も古くからのその小路に基づいて作られた。龍巣院の門側に山口神社という小祠がある。この寺には小筐に密封されて秘蔵されている乾龍があるが、この龍がかつて土地を苦しめた毒龍であった。

寺地と稲生沢川の間に大きな古池があって、そこに毒龍が棲み人畜を害し田畑を荒らした。人々は大いに恐れ困ったが、たまたま巡錫された最勝院の吾宝禅師が、この苦しみを除かんと、大悲心を起して留錫された。

禅師の朝暮の神呪の読誦により、池水は次第に涸れ、毒龍も寸小に縮まって、池の中で乾死したという。人々はことごとく安堵して、禅師を信仰して一寺を建立した。これが龍巣院である。池のあとは池田と呼ばれている。

乾龍は寺宝となって、旱魃のときは稲生沢川の川上妙善淵というところに持ち出されて雨乞いが行われた。必ず降雨の霊験があったという。

千葉星定『南豆伝説集』
(梅仙窟・大正15)より要約

下田の箕作に今も龍巣院はある。県道とあるのは今の国道414号線のこと。箕作(みつくり)は「道作り」である「みちつくりの明神(神階帳)」が祀られた地である、という説もあるところで、なるほど往昔の重要な道筋だったところなのだろう。

この話はまた「乾龍の小筐」という名でも語られるが、その箱も現存するそうな。だが、開けると災いがあると申し送られていて、歴代住職も開けたことがないという。寺の前は田が広がり、その先に稲生沢川が流れるが、その田が池だったというのだろう。

中伊豆の最勝院を開いた吾宝禅師は、そちらでは天狗に菩薩戒を授けて水をもらったなどという話になっており、天狗を竜蛇に代えても通るような話なので、そういう高僧なのだというイメージがあったのだろう。