永享のころの昔。山田の奥には竜が棲んでいるといわれ、恐れられていた。人々は近寄らなかったが、山田の威勢のよい若者が退治してやろうと一人山に向かった。ところが、現れた竜に見据えられると手も足も出ずに家に逃げ帰ってきたという。
その年(永享十一年)十一月、宗能禅師がこの地に寺を建立しようと、村人とともに整地に汗を流し始めた。すると、俄かに空が曇り稲妻が光り、目を光らせた竜が現れ、ここは自分の住処だ、立ち入ることは許さないと禅師にいった。
禅師はそれから三日三晩の祈祷を行い、悪竜の説得に務めた。さしもの悪竜もこれにより仏法に帰依し、その後は地中深くに身を隠して、この地で仏法護寺に尽くすと誓ったという。今、このとき建立された寺、蔵春院の本堂裏にある池は竜王の池といい、竜が身を沈めたところであるという。