昔、ある村に仲の良い若い夫婦がいた。よく水を大事にし、子どもらが水にいたずらすればすぐ叱るなどした。この夫婦には子がなく、道祖神様に子授けを願うのが日課だった。すると、願い通じてか玉のような男の子が生まれ、夫婦は大喜びした。
夫婦はぜひ皆を呼んで子の誕生を祝いたかったが、大勢に出す膳椀がない、そう夫婦がしょげていると、夢の中に白い着物の美しいお姫さまが立った。姫は、自分は水の精の使いであるといい、いつも水を大事にする夫婦に、膳椀を貸しましょう、といった。
姫は、そして願いを紙に書いて、丸岩の割れ目に入れなさい、と告げた。目がさめた夫婦がそのようにすると、翌朝には願った通りの三十人前の膳椀が揃えられていた。
さっそくお祝いを済ませ、膳椀をきれいにして同じ場所に並べると、それは岩の割れ目の中にすっと消えた。この話は皆に知らされ、村では重宝に願いを聞いてもらっていたが、あるとき悪い人が五十人前借りて四十九人前しか返さず、それより貸してもらえなくなったそうな。