ここのお諏訪さまのご神体は石で、毎日毎日その石がふえたりへったりするというが、まあ、そのご神体は神主さんでなきゃさわることもできねえな。
あるとき、お祭に神主さんが来られて
「ああ、今日は石がだいぶふえてるな」
せってな、どんな石だか俺ゃ見たことないけんどもよう、その石が日にちに減ったりふえたりすんだとよ。話にきくだけだがよ。
ふえるといいとか、減るとわるいとかいうことはない。(石川 西山栄蔵氏 明治27年生・昭和50年4月)
ここの神主さんは白旗神社の近藤さんで、それを言われたのは、いまの神主さんのお父さん。石がふえるときはいいという。(石川 加藤吾郎氏 大正4年生・昭和51年4月)
減ったときはいけない、何か氏子に災難があるって聞いてるね。(石川 入内島松治氏 明治35年生・昭和51年4月)
この石川の諏訪神社には、上の話の御神体とは別に、「おふくろさん」と呼ばれる大蛇の母であるという石が本殿裏に祀られていた、という話もある(「おふくろさんという石」)。
しかし、その「おふくろさん」の石は道祖神様の五輪塔の天辺部・ごろ石もあり、しばしば相模でもこの類は「増える」とされることから、混同されて話されている可能性もある。
相模では三浦半島相模湾側、横須賀市秋谷の小地名にその名も「子産石」があり、今もバス停はその名だが、これは甌穴(ポットホール)に形成される丸石のことで、これがよく産した故にその名がついたのだと思われる。そして、その仕組みが「増える石」の伝として語られていったのだろう(この諏訪神社の「減る」という話は珍しいが)。
ごろ石は自然の丸石ではないが、甲信地方の丸石道祖神を代替する面が大きいものであるには相違ない。この石川諏訪神社の増減する石の御神体、もしくはおふくろさんの石には、そういった甌穴石と竜蛇を繋げる感覚があったのかもしれない。伊那のほうには甌穴が竜宮につながる、という話もある(「檜原川の甌穴」)。