諏訪神社の池から出たという「おふくろさん」と呼ばれる石が本殿裏に祀ってある。雨乞いの時になでたり、蛭を除けてくれるという。なぜそう呼ばれるのかはっきりとしないが、昔、諏訪神社の池に大蛇がいて、そのそばに石があって「大蛇のおふくろさん」であるからそう呼んだという。
また、違う話もある。昔、土地の男が逐電するときに、足手まといになる母親を諏訪神社の池に投げ込んでいったのだという。母親は石となり、それがおふくろさんの石なのだともいう。雨乞いの時に担ぎ出したが、重くて大変だった。どういうわけか蛭除けの験があるというが、確かにこの辺に蛭はいない。
石川の鎮守である諏訪神社の話。今私が訪れた際は池らしきものは見えなかった。おふくろさんの石はかつては本殿裏にあったとあるが、今は鳥居前に並んでいる。一見双体道祖神に見えるような大きめの自然石と、相模でまま道祖神扱いされる五輪塔の天辺(空風輪部・五輪石、ごろ石などという)が並んで置かれている。
興味深いのはこの諏訪神社のご神体がまた「ふえたりへったりする石」だといわれることだ(「お諏訪さまの石」)。ごろ石が増殖する「子生み石」の類だとする伝えは相模にもままあり、もしかしたらおふくろさんの石と混同して語られているのかもしれない。
ともあれ、そのような道祖神(さいのかみ)であったろう石が、「大蛇のおふくろさん」であるといわれているのが、この藤沢石川の諏訪神社なのだ。広く道祖神と竜蛇譚を結び付けていくのは難しいが、甲信地方の丸石信仰などにはそういった面がなくもない。