いざ沼の蛇

千葉県茂原市

本納橘神社の後方に、いざ沼という沼があるが、泥深い沼で、一面に葦が生い茂っている。何時の事であったか、道普請の折、沼の一隅を、鍬で掘って行ったところ、忽ち沢山の蛇が出て来た。で、直と、橘神社の神官に頼んで、祓いをして貰ったところが、一旦蛇の姿は見えなくなってしまったので、神官は、神社にとって帰した。そして、ふと三宝の上を見ると、一匹の蛇が、うづくまっていた。
これから、誰も恐れて、いざ沼へは行かないようになってしまった。(「南総俚俗」)

藤沢衛彦『日本伝説叢書 上総の巻』
(日本伝説叢書刊行会)より

上総二宮である橘神社の後方に、こういった蛇の沼があったのだという。弟橘媛が竜神を鎮めるべく入水し、姫そのものが竜になったということを語る事例も多く、その社には時折蛇の話が見える。