太平山一の鳥居近くの神橋と御手洗の上に、御神木の杉の大木があり、その根本に三坪ばかりの小屋がある。中は石組で池になっている。これは、鰻お小屋といって、遠近の信者が鰻を奉納に放つ池である。ここへ納めた鰻は神の徳によって白くなるのだという。
鰻が小屋の池に充満して毬のように絡み合っていて蛇のように見え、気の弱い者は一目見て卒倒せんばかりであったという。また、年取った耳の生えた鰻もいるという。
ところが、幕末所謂勤皇の太平天狗が山に立て籠もり、この鰻を食ってしまい、その乱暴さを町人に恐れしめ、恨ましめた。それ以後鰻の奉納は減ってしまったといい、明治の中ごろまではあったが、今は絶えた。鰻お小屋は今も水を湛えているが、山の茶屋の水汲み場となって、大きな柄杓が置いてある。(部分要約)