虹を織る姫

福島県福島市

山奥の淵で虹織姫が一年中機を織っていた。天の織姫が何かの理由で淵に降ろされたのだと里人はいっていた。淵には美しい虹がかかったが、その虹は半分しか出ないのだった。その山奥には櫛を作る父子も住んでいたが、息子は話に聞く姫を見たくて、よく淵のそばで祈っていた。

ある時、男は朱塗りの櫛を作って淵に置いた。すると、水底から渦が巻いて櫛を引き込んだので、男は怖くなって帰った。父には、人がそんなことをしたら取り返しがつかない、とたしなめられ、恐ろしく思っていたのだが、また淵のそばを通ると、霧の中に美しい女が現れた。

女の髪には男の作った櫛がさされており、男はうれしさのあまり涙した。そして、夢見心地にその様子を里の宿の主人に話したが、その後、早く帰って父にも伝えたい、と出たきり行方不明になったそうな。

淵のへりには男の荷物が残っており、淵からは見事な虹がかかり、山の向こうまでのびていたという。以降、淵の姫の姿は見られなくなった。里人たちは織姫が婿を見つけて天に連れ帰ったのだろうと噂した。

『日本昔話通観7』より要約

稿本からの採録ということで、原題は不明。通観上では「天人女房」の題となっているが、通常その題で語られる話の流れとは一線を画する感があるので、独自の題とした。福島市での採話とあるが、具体的な舞台などは不明。

中通り月舘には女神山の小手姫という機織姫の事績が語り伝えられ、そういった存在の中核をなすと思われる。その周辺で大きな幅をもった機織姫たちの話が色々にあるところはよく見渡しておきたい。