お屋敷の蛇女中

徳島県海部郡美波町


日和佐城主の屋敷に、お蝶という料理上手の女中がいた。殿様はお蝶を寵愛して奥方の料理を口にしなかったので、奥方は嫉妬してお蝶の様子を夜昼なく窺っていた。すると、お蝶は夕方になると人に知られぬよう裏口から抜け出ていくことが分かった。

お蝶は桧鼻の松林に行き、そこに沢山棲むぐちな(蛇)を捕っていたのだ。ぐちなを取って帰ると、お蝶はそれを鍋で炊き出した。小さな穴のある蓋をし、ぐちなが熱がってそこから顔を出すと引き出す。そうすると骨だけがすうっと抜けて、皮と肉が鍋の中に残るのだった。

このようにして作っただし汁がお蝶の料理の秘密だったのだ。奥方がこの事を殿様に知らせると、殿様は火のように怒り、お蝶を捕え、桶に入れると桧鼻に埋めた。桶の蓋に大石を乗せ、蓋には小穴を開け、そこから蛇を押し込んでお蝶を蛇責めにして殺してしまった。

それからお蝶の怨霊が火の玉になり、桧鼻からお屋敷の方へ飛んでいくようになった。そこでお蝶を祀るようになったのが若宮さんであるという。蛇責めに使った蓋石は、今も日和佐駅前広場の片隅にある。

『日和佐町史』
日和佐町史編纂委員会
(日和佐町)より要約

追記

北に行って讃岐の引田にも蛇から出汁を取っていた女中の話がある(「仁池」)。そちらでは結果女中自身が蛇体と化していた。非常に良く似た話ではあるのだが、この日和佐の方ではお蝶が蛇体になるというモチーフはまったくない。

つまり、その女中の正体が蛇だった、という展開をしなくても、蛇の旨味という話は成り立つということだ。上州の方には、よりその旨味そのものを語った事例などもある(「蛇と御飯」)。