竜神さん

静岡県伊豆の国市


永享のころの昔。山田の奥には竜が棲んでいるといわれ、恐れられていた。人々は近寄らなかったが、山田の威勢のよい若者が退治してやろうと一人山に向かった。ところが、現れた竜に見据えられると手も足も出ずに家に逃げ帰ってきたという。

その年(永享十一年)十一月、宗能禅師がこの地に寺を建立しようと、村人とともに整地に汗を流し始めた。すると、俄かに空が曇り稲妻が光り、目を光らせた竜が現れ、ここは自分の住処だ、立ち入ることは許さないと禅師にいった。

禅師はそれから三日三晩の祈祷を行い、悪竜の説得に務めた。さしもの悪竜もこれにより仏法に帰依し、その後は地中深くに身を隠して、この地で仏法護寺に尽くすと誓ったという。今、このとき建立された寺、蔵春院の本堂裏にある池は竜王の池といい、竜が身を沈めたところであるという。

『おおひと昔ばなし その二』
(大仁町教育委員会)より要約

追記

蔵春院は足利義教に反抗し鎌倉将軍を名乗った足利持氏が討伐され、この菩提を弔うべく建立された寺。そして、話にある宗能禅師とは、相州大雄山最乗寺五世の春屋宗能禅師のこととなる。

春(舂)屋宗能禅師とは、あの江戸・中野長者の蛇体と化した娘を昇天させた僧でもあり、竜蛇と因縁のある僧のようだ。大雄山は直接竜蛇伝説とは係わらなさそうだと思っていたが、実は相州愛甲で二世大綱明宗禅師も毒龍を化度している(「古澤山龍栖寺」)。