原文:静岡県裾野市


昔から家の周りに出入りする蛇は殺してはいけないといい、それは、家の先祖様の化身だからと言う。

或る年に村境の林田某が家の川戸にいたヤマカガシを女、子供に「恐いよ」と言われて殺した。

ところが、その二日目から蛇にたたられたのか、自分と子供が共に熱病に取りつかれてひどく病んだ。

巫女にみてもらうと「最近に何か殺生をしたか……」と聞かれ、ありていに蛇を殺した事を告げた。と、
「俺は、お前の家の祖先だ。家に何か変わった事がなければよいがなと思って、家を確かめて帰ろうとすると、や先にお前に殺された」と言う。

そこで男は「何も分らぬので、とんだことになり誠に申し訳ない」と深く詫びて、祈りを上げたところ間もなく、子供ともども病を快復したと言う。

また、隣の人も家の隅でアオダイショウを殺してから病気を患った。

物知りに聞くとそれは、
「亡き母の魂がーー。」という事で、供養したら治ったと言う。

私の家へは、川戸の石垣を棲み家としたアオダイショウがよく、鼠をくわえて通り門の梁に上がり、首を大車輪のように振って鼠を窒息させて飲み込む。

また、日を追い卵をくわえ喉首を柱にぶっつけて、飲み込むさまをよく見かける。

こんな時に年寄りは、
「決して蛇にさわるなよ」と言う。

ただ、ツバメが雛を育てている時には「梯子をかけて登り、静かに追い返せ」と言うので、
「おい、まて、待て」といって登って行くと、それが分かるのか蛇は鎌首を下げて向きを変え、スルスルと柱を伝わって川戸へ逃げる。

これらの蛇は私達にこれ迄害を及ぼした事がない。

『裾野風土記 二 伝承』羽田勲
(裾野市史編纂委員)より

追記