静岡県裾野市


家の周りに出入りする蛇は、家の先祖様の化身だから殺してはいけないという。ある年、某が川戸にいたヤマカガシを殺してしまった。すると、その二日後から自分と子供が熱病にとりつかれ、ひどく病んだ。

巫女にみてもらうと、蛇が出てきて、俺はお前の家の祖先だ、家に変事がないかと確かめに帰ってきたらお前に殺されてしまった、という。そこで某は深く詫び祈りを上げたところ、子供ともども回復したという。アオダイショウを殺したら病み、亡き母の魂だ、と物知りにいわれたという話もある。

昔はアオダイショウが鼠をくわえて梁の上にいたり、ツバメの巣をねらったりしたが、決して蛇にはさわるなといわれ、静かに追い返したものだった。言えば蛇もわかるのか、向きを変えて川戸に逃げたものだった。

『裾野風土記 二 伝承』羽田勲
(裾野市史編纂委員)より要約

追記

死んだ人、その霊魂が蛇となるという話は各地にまま見える。裾野から南に下って伊豆に入ると、日金山が死者の赴く山、行けば亡き人にあえる山として知られてきたが、そこへの道すがら出会う蛇は亡き人の魂だなどという。

たとえば霞ヶ浦周辺などでは、死者の魂は四十九日の間蛇となって家の梁や屋根にいる、といった。盆に帰る死者を迎える行事にも、盆綱という蛇の綱が登場する(多くはその盆綱の蛇が祖霊の乗り物なのだと説明される)。

上州館林のほうにはこの駿東の例とよく似た話があり、やはり子息が心配になって出てくるのだなどという(「死者と蛇」)。

また、葬式があって四十九日たたない人が神社に参ると、御神木の白蛇が顔を出す、などという話も(「逆杉」など)、今は死のケガレを神が嫌うからと解釈されるだろうが、もとはまだとどまっている祖霊がいるというような話なのだと思う。