妙薬・蛇レン

岐阜県高山市


山の麓の宿屋の娘が毎日橋の上に立って水鏡をしながら髪をすいていると、川の中の大蛇が若者に化けて娘を嫁にもらいにくる。親はどこの男かわからないからとことわるが、娘は男にほれ男に連れられて川の中へ吸いこまれる。娘は三年目に子供を生みに帰ってきて、「子供を生むところを見ないでくれ」と言って男の子を生み、「ささ巻きを作って川に流してくれ」と頼んで川にもどる。宿屋でささ巻きを作り客に買ってもらって橋から落とすと、大蛇はささ巻きを食べて顔だけ人間の姿になって浮かび、蛇の胸のところに「おれの体は薬になる」と書いてあったので、黒焼きにして「蛇レン」という薬にして売るとどんな病気にもきき、娘の家は薬屋になって繁盛した。(大野郡丹生川村・女:『続丹生川昔話集』)

『日本昔話通観 第13巻』
小沢俊夫・他(同朋舎出版)より

追記

大蛇の死骸、殊に骨や黒焼きはまま万病の薬になると語られる(「大蛇の骨薬」など)。しかしそれは神仏や英雄に討たれた大蛇や、土砂崩れで死んだ大蛇のそれであり、自らその身を差し出すというものではない。

それがこの蛇レンの由来では、蛇に嫁いだ娘がその身を薬とするよう差し出したということなのだ。もともと蛇聟から蛇女房の話がつながったような話だが、さらに自らを討たせ育ての親に富をもたらす蛇息子の話の要素まで含んでいるようだ。

もとより上は梗概の筋であり、当地の様子も分からないので話そのものについてはまたとするが、大蛇の死骸が薬になる話の一つの極端として引いた。