蛇の恩返し

長野県下高井郡山ノ内町


昔あるところに爺さんと婆さんがいた。ある日、爺さんがボヤ(柴)を背負って山から帰ると、小さな蛇が這い出した。爺さん婆さんは子がなかったので、小蛇にシガと名付け、自分たちは粟を食べ、シガには米を食わせて、可愛がって育てた。

ところが、シガはもくもく食べてどんどん太って、家の食べ物が尽きてしまった。それで、シガは泣く泣く山に放たれた。するとそのうちに、山の大蛇が家畜はおろか人も呑むという噂が広まり、大蛇を退治した者には褒美を与えるというお触れまで出た。

爺さんは、シガのことだ、自分たちの責任だろうと、自らシガを手にかけるべく山に入った。現れたシガも、このまま生きていくには人を呑み続けねばならない、それならお爺さんにこの首を切ってほしい、と首を出した。こうしてお爺さんは涙ながらにシガを切り、大蛇討伐の褒美で一生安泰に暮らしたそうな。

『信州の民話伝説集成【北信編】』
高橋忠治(一草舎出版)より要約

追記

山ノ内町の話とあるが、特に地元のこととして、という伝説的な面は見えず、蛇息子の昔話が語られたというほどのことかもしれない。シガの名に何かあるか、くらいだろうか。ともあれ、ここでは蛇息子のいろいろの問題はさておき、この蛇息子・シガが米を食って大きく育っている点をよく見ておきたい。

これは屋敷蛇・蔵に住む蛇の特徴として語られることがある部分であり(「米を食べる蛇」)、蛇息子の話との連絡点として意識しておきたいところなのだ。賽米を好んで出てくる神社の蛇の話などもあるが、米を食った蛇は人寄りに鎮まった存在になりやすいというイメージがあるか。