水戸際池の伝説

新潟県新潟市西区


木場川前の電鉄線のわきに、山佐が池とか金巻池とか呼んでいる池がある。もとの名は水戸際池という。今から百四十年位前に近くの八郎というところにオジという若者がおり、盲の祖母と一緒に住んでいた。

オジは祖母によいものを食べさせたく、村々の着物を盗んでしまい、これが露見し、皆につるし上げられてしまった。散々の命乞いも聞き届けられず、オジは俵につめられ中ノ口川に投げ込まれてしまい、必死で岸に戻るが、また投げ込まれて沈んでしまった。

しばらくしての夏、大雨となり洪水が起き、村は水没した。このとき濁流の中にオジを詰めた俵を見たというものが居り、洪水でできた池の底の方から唸り声が聞こえるようになった。村人たちはこれは主となったオジの祟りではないかと恐れた。

『黒埼町史 資料編六 民俗』
(黒埼町)より要約

追記

オジが竜蛇になったとは言っていないが、下って昭和四十年になって、村の婦人の夢にオジが立ったということがあって、結果八幡宮境内に白龍様と祀られたというから大蛇のヌシになったということでよかろう。後述するように、この周辺では大蛇を「おじ」と呼ぶのだ。

水戸際池は、現在は金巻の池公園といって池もある。すぐ隣に諏訪神社があるが、件の八幡宮というのは西隣木場の木場八幡宮のことだろうか。白龍様が現存するのかどうかは不明。

さて、新潟市域では大蛇のことをまま「おじ」と呼ぶのであり(「大山のオジ」)、この水戸際池の伝説も類するものといえる。ただし、大蛇そのもののことではなく、人間の若者の名がオジであった、という点が特異だ。

「おじ」という大蛇が何の意かというのも難しいのだが、一方の大蛇・男蛇(おーじゃ)の音からの転だ、という解釈とは、この話は相容れないかもしれない。弟・乙のことだ、という方向と近い気がする(「鵜ノ子の主」も参照)。