鵜ノ子の主

新潟県新潟市江南区


鵜ノ子には昔潟があり、大蛇が住んでいた。この大蛇は主だったが、会津に行って猪苗代湖のイモリと対決して負け、いなくなったという。しかし、漁師が網を引くと、魚の集まる真ん中が取られてしまいなどし、これは主のオジ(大蛇)権現の仕業だと恐れられた。

オジ権現様を見た者は死ぬといわれ、長潟と鵜ノ子の潟の境の土手に堂があった。オジの住居だといわれていたが、現在は新潟東病院の近くに移されている。酔ってここで「オジ来い、オジ来い」と呼んでいるうちに死んでしまった長潟の人もいた。昭和二十年前後のことだ。

『新潟市史 資料編10 民俗 I』
新潟市史編さん民俗部会
(新潟市)より要約

追記

鵜ノ子の地名は今に残る。その北西側に東新潟病院(中央区に入る)があって、話の堂の移った先だと思われるが、現状は不明。ちなみに、潟は新潟南警察署のところにあったと原文にあるが、これは今の江南警察署のことである。

新潟市域にはこのように大蛇を「おじ」と呼ぶ例がままある(「大山のオジ」から)。その「おじ」が何の意味なのかというのも難しいのだが、この鵜ノ子の潟の事例では、そこに少しく言及のある部分がある。

上にもあるように「オジ(大蛇)」と書かれ、大蛇(だいじゃ、ではなく、おーじゃ)の転であるとされている。男蛇・雄蛇のことを「おじゃ」ということもあるので、確かにまずその可能性はあるだろう。

しかし一方で、隣接亀田で話されたものとして同じヌシのことと思われる話が『高志路』(通巻61号「続新津郷奇談(一)」)にあり、「オジ(弟)蛇は、昇天しそこなったので、落第という意味からオジと名づけられた。それは漆黒の色をしており、人に害を与えるものではない(要約)」ともいう。

それだと弟蛇・乙蛇というような意となり、大蛇・男蛇とはずいぶんニュアンスが異なってくるだろう。実は東京のほうにも大蛇をこう呼ぶ風があるのだが、「おじん・おんじ」ということがあり、やはり大蛇からは離れる(「槇の屋のおぢ」)。

韓国では昇天し損ね、竜になれなかった大蛇をイムギと呼ぶが、そういった存在に近いものという感じがあるだろうか。引いた筋でも、猪苗代湖のイモリに負けた、という部分にその雰囲気はある。