勘安ペロリ

神奈川県足柄上郡開成町


昔、河原町に勘安という怖いもの知らずの男がいた。その勘安が、松田山に炭焼きに入ったときのこと。仕事を終えて、大好きな酒を呑んでいた勘安が、一服つけようと炭焼き窯の火にキセルを持っていくと、火がひょいと逃げる。もう酔ったかと訝る勘安がよく見ると、火に見えたのは大蛇の目玉であった。

流石の勘安も一度は悲鳴をあげたが、酒が入っていることもあって、この勘安さまを騙すとは、窯にぶち込んで、焼いてペロリと食ってやる、と威勢良く大蛇に向かっていった。大蛇はタバコのヤニが嫌いなので後ずさったが、面白がった勘安がキセルに火をつけようと窯のほうを向いたとき──ペロリ。

次の日、帰らぬ勘安を心配した家の者が山に行くと、そこには勘安の徳利とキセルが転がっているばかりで、窯には見事な炭が焼きあがっていたそうな。それで、その辺りを今でも勘安ペロリといっている。

『私たちのふるさと昔ばなし』
(小田原青年会議所)より要約

追記

開成町は昔話に乏しい、と同資料などにもあるが、その中の貴重な大蛇譚ではある。もっとも、勘安という男が飲まれたという以外に何を語ろうとしたのかというのもよくわからない一話でもある。

松田町には『まつだの地名』というかなりの小地名まで採集した資料があるが、「かんあんぺろり」ないしそれを思わせる名というのは見えない。あるとしたら「観音○○」地名かとも思うが、山奥というところではない。