水を呑みに出た龍

原文:神奈川県足柄上郡中井町


鳳安寺焼失後廃寺となり、天正年間に建立されたという米倉寺本堂に雌、雄二頭の龍がある。

慥かではないが、左甚五郎の作と伝えられている。一頭は鎌首を高く上げて何物かを呑もうとする気構え、一頭は宇宙の何物かを握もうとする気配をもつている。

ある時この二匹喉をうるおす為、葛川のほとりで思う存分に水を呑み、のそのそ寺に帰ろうとする時に洗濯婆さんに出合い婆さん驚きの余り腰をぬかし暫くは口もきけぬ様であつた。この事のあつてからこの方、再び外出しないようにと二頭とも両眼を鋸でひきつぶしたので鋸の歯跡が残つているという。

『中井村誌』中井村誌研究調査委員会
(中井村)より

追記