ボラのヨーバミ

原文:神奈川県中郡大磯町


(略 ヨーとは夕方の意味。ボラがまとまると色が赤くなる。その赤くなったところに船が通りかかると、船の中にボラが飛び込んでくる。そういうときは、みな船の中に伏せてムシロなどをかぶる)

なぜそれをね、かぶるかっていうとね、そのボラをね、怖がらせてまとめてんのはね、ナガモノだっていいますね。わたしは実際に見たことがないんだから、それはもうはっきりとは言えませんけんどね。そのナガモノが、ボラをまとめて、しまらししゃってんですねえ。だから、その上を船が通んと、ボラがみーんな飛び込んできしゃう。飛び込んでくるせったってよ、ちっとばかりのもんじゃねんだから。たいへんなボラが、何百いんだか何千いんだかわかんねえよなボラがね。そで、それを、そうふうにさしてんのは、ナガモノだっていうんですよ。蛇ですね。蛇だって、ちっちゃい蛇じゃなく大蛇でしょ、おそらく。そういうことを聞いたことありますね。で、そのナガモノのね毒気(どっけ)をね、毒気っていうのは、その息ですよ。これを吹きかけられんと、まあ、危ないわけなんだな。だからそういうに伏せてね、ムシロかトバをかぶって、そん中を抜けてくる。そしんと、もうボラがそうとう入ってるね(男、大正三年生、大磯)。

『大磯町史8 別編 民俗』
(大磯町)より

追記