宇賀神社さんの事など

原文:神奈川県中郡大磯町


滄浪閣の前に道祖神がある。その中に蛇の石造物があったのでびっくりした。

民俗学者に此の事を話したらそんな例は始めてだと言う。まてよ、と思って近くの宇賀神さんをのぞいてみたら案のじょう、多くの狐の中に混って蛇も祭られていた。宇賀神さんのある所が小字稲荷松、祭神が大食津姫で、しかも数多くの鳥居が奉納されているのでついうっかりしてしまったのだ。

稲作の豊穣を祈り祭る神に「田の神」があるが、これは稲魂を祭ったもので又の名を「ウカノミタマ」とも言う。此の神の御使いとして狐が登場し、やがて、狐そのものが神様と考えられるようになったのだと言う。

一方穀物の豊穣をもたらすべき神に「水の神」があった。そして水の神は、蛇、鰻、魚、などで表現された。

田の神祭りが苗代の水口でおこなわれる事が多いので、田の神と水の神は非常に接近したものがあったようである。宇賀神さんも其の例の一つであろう。

昔国府祭(こうのまち)の時、一宮・四宮・八幡さんのおみこしは宇賀神さんの裏の道を通った。小磯の人達は、宇賀神さんの神格が高いので他の神様は前を通る事が出来なかったのだと言い伝へ、他所の人達は、宇賀神さんはままっ子の神様だから前を通るとやきもちをやかれ、あたをされるから前は通らないのだ、と言い伝へる。其ののち前を通るようになった時代のこと、国府祭からのかえりに、宇賀神さんの前にさしかかった時には提灯の火を消し、一同息をひそめて通り、通りすぎたとたん「わーっ」と歓声をあげたと言う。

尚江戸時代の末であろうか、国府祭の輿かつぎの若者達が小磯の切通しで大げんかをして、小磯村に大変迷惑をかけたので今後一切輿かつぎは通行させないと言い張る小磯の役人に関係者一同わびの一礼を入れてやっと通行出来るようになった、と言う話しも残っている。

『大磯の今昔(一)』(鈴木昇)より

追記