お宮の釣鐘

原文:神奈川県綾瀬市


(ここら辺でおとぎ話の話って聞かないですね。)ねぇだろ。ここら辺でおとぎ話はねぇよな。そういう話はねぇことはねぇけんど、話は子供の時聞かされたな。あるけんどよ、そんなの忘れちまったよ。(でもきつねに化かされた話だとか、おいてけ堀の話は有名ですよね。)これはね、早川がおいてけ堀だからよ、あんだからな。だけど、それとよ、あとはね、早川のお宮の釣鐘の話とかな。(釣鐘の話って何ですか。)わかんねぇ、知らねぇ、ほうそうか、みんなわかってんだと思った。(どんな話なのですか。)やーあれがね、あのーあれがね、「オモイド」ってんだけどな。早川のお宮のね、斜め下っかわの方の所に坂があんだけんどよ。こうな、お宮がこうあってよ、お宮がこうあるとね、ここんとこに急な坂あんだよ。坂の途中にな、ここんとこには、「オモイド」ってなんだ、井戸っていうけんど、ま、池みたいなものだな。そんでよ、あの時、この、あの、早川のお宮はね、あのー、釣鐘がね、ま、昔の話だ。ありゃー何だ、お宮は五社神社っていって五社あるんだけどな、だけんど釣鐘が嫌いな神様がいるんだってよ。そんである時にね、ま、大風があったんだか何があったんだか知らないけど、そんでもって釣鐘があったんだけんどそれが倒れてよ。こんだね、その釣鐘がな、ごろごろ転がってよ、転がって来て、坂だから、そんで何を。あのー井戸なんだけどな、井戸っていうけんど、あれ、池なっちゃって、ま、水湧くから井戸っていうけど、そこへな落っこっちゃったんだってよ。ほんで出るよう、こんだみんなして出そうと思って今度あれをよ、網をかけてよ、引っ張りあげんぞとみんなして引っ張ったらしんだわ。引っ張ったら、引っ張っても引っ張ってもよ、こんだだんだんもぐっちまうんだってよ。持ち上がってこねぇだってよ。だんだんもぐっちゃってとうとう諦めちゃった。そんでその中にな、だから埋まっちゃってるって話なんだけどよ。本当に入ってんだか入ってるだかわかんねぇけど、俺だって知らねぇけどな。そこなんだよ。底無しの池なんだな。だから、それでともかく埋まっちゃった。だから入っちゃったんだってよ。だからそれがね、そういう話があるんだ。ん。

『寺尾の民俗』(綾瀬市)より

追記