お宮の釣鐘

神奈川県綾瀬市


早川のお宮にオモイドという井戸(池)があるが、そこに釣鐘が沈んでいるという。お宮は五社というが、中に釣鐘が嫌いな神様がいて、大風か何かで釣鐘を倒して転がし、オモイドに落としてしまった。

それで皆で網かけて引き上げようとしたのだが、引いても引いても潜ってしまって諦めたのだそうな。それで、オモイドは底なしで、釣鐘が沈んでいるという。

『寺尾の民俗』(綾瀬市)より要約

追記

綾瀬の総鎮守、渋谷党の守護社であった五社神社の話。オモイドというのは一般に「尾の井戸」と書かれ、社地を亀居山といい、その尾の位置にある井戸(湧水池)であった。

五社とは地神五代を祀りそういうが、本来は五大明王を祀り五頭宮といったともいう。そのあたりも難しいお宮なのだが、ここで問題としたいのはその中に「鐘を嫌う神」がいた、という点だ。単に神仏分離にまつわる話ともとれるが、竜蛇も時に鐘を嫌うのだ。

鐘の龍頭が雨を降らせる龍とされたり、鐘そのものが竜蛇と化したり(「池田沼の鐘」など)、あるいは蛇女房の話で蛇母が最後に鐘をつくことを頼むのが定番であったりと、一般には竜蛇と鐘は親和するものである。

しかし一方で、明らかに鐘を嫌うということをいう竜蛇(竜女)の話もある(「山内禁鈴・二人の竜女」)。そして、あからさまに鐘を好く・嫌うという存在は竜蛇をおいて他に聞かないのだ。

五社神社の鐘を嫌った神というのは竜蛇神ではないのか、という疑いがここで出てくるということだ。五大明王の例えば軍荼利明王などで説明できるものかどうか、もはや難しい話だが、その可能性というのは頭に入れておきたい。